【S】―エス―01
第19章 真相、そして――
「特にないよ。けど、あえて言うなら『僕が僕である為』……かな」
相変わらず片手で頬づえをついて目を細め、唇は下弦を描き、にいっと笑い言うのだ。なんとも夢想的に。
「?」
眉間に皺を寄せ訝る香緒里。刹那はそれを横目に立ち上がり、数歩後退すると持っていた黒い手帳に視線を落とし適当なページを開く。
「残った変異個体のうちS‐06は――か。こんな物、よく残してあったね」
軽く読み上げ手帳を閉じふっと息を漏らした彼は、見上げる香緒里に視線を送り小首を傾げ問う。
「知りたい? そこで大人しくしているなら、教えてあげてもいいよ」
刹那の言葉に困惑し思考する。自分である為、本当にそれ以上の目的はないのか……と。
「僕らはただの【複製】じゃない。もとは、国が秘密裏に造らせた殺人兵器なんだ」
首は傾げたまま後ろ手に目を伏せ続ける。
「分かるかい? 目の前で自分が死にゆく様を何度も見せられる、それがどれほどのことか」
くすんだ窓から差し込む月明かりが、佇む刹那の姿を青白く仄かに照らした。
「どうしてそんなこと……」
後に続く言葉を呑み込む。可能性として、ひとつだけ思い当たるからだ。