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【S】―エス―01

第21章 崩壊

 瞬矢にはある確信があった。刹那と対峙したあの時、確かに彼から伝わってきたいくつかの思念。


 それは、人間ならば誰しもが持ち得る『愛憎、嫉妬、羨望』といった他者に向けられる感情の類いだ。


 その感情の全て自分に向けられることが、どうしようもなく嬉しかったのだ。なぜならば、それは彼がまだ『人』であるという証だから。


「無駄だよ」


 刹那は淡く光を帯びた薄紫色の瞳で見据える。ごうっという音と共に生じた風圧で、瞬矢の体は後方へと弾き飛ばされた。


「ぐあ……!」


 真っ直ぐな軌道を描く体は、そのままコンクリートの壁へと叩きつけられる。鈍く襲う衝撃に低く呻き声を上げ、顔を歪めた。


 身体能力以外は生身の人間と同等。能力を解放した状態の彼を相手に、到底敵う訳がなかった。


 だが思いは収まらない。コンクリートの壁に叩きつけられても、尚。


「力、使いなよ」


 右手を前方に翳(かざ)し、薄ら笑みを浮かべながら刹那は言った。彼が近づく度、喉が締め付けられ体は壁にめり込む。


「……っ、やな……こった」
 

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