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【S】―エス―01

第21章 崩壊

 瞬矢はコートの左ポケットから【S‐06】と刻まれた銀色の腕輪を取り出す。


「数字ってこれのことだろ? 最後に別れたあの日から、ずっと持ってた……。刹那、お前も同じ物を持ってるはずだ」


 揺らぐ薄紫色の瞳で瞬矢を見下ろし、彼が手にしたそれを視界に捉えごちた。


「あぁそれか、懐かしいね。でも――」


 一旦言葉を切り、ふっと瞑目する。雲間から覗く三日月が笑う。


「それ、本当に君のもの?」


「!?」


 窓から差す月光に半身を照らされ告げる刹那の言葉に、瞬矢の表情が固まる。


 ぐにゃり、空間が歪む。


 ――完全な思考停止。時間をかけて繋ぎ合わせた記憶が、靄の中に落ちてさ迷う。


 すると刹那は目元と口元に湛えた妖しげな笑みをそのままに、小首を傾げ訊ねる。


「……忘れたの?」


 次いで彼は、瞬矢の予想だにしない言葉を放つ。


「僕が君を、あの深くて暗い眠りから起こしてあげたんだよ」


 薄紫色の目を見開く刹那。意識は白い靄の中、見上げた瞬矢の黒い双眸にその瞳がぴたりと重なる。


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