
【S】―エス―01
第21章 崩壊
◇3
――あの頃、毎日のように通いつめていた。
年の頃は9歳か10歳くらいだろうか。白いシャツの襟元に髪の色と同じ艶やかな黒い細めのリボンをあしらい、焦げ茶色のハーフパンツに黒いハイソックスを身につけている。
その少年が向かったのは、屋敷の地下の更に奥へ位置する無機質な暗い部屋。――彼が目覚めた部屋。
暗闇の中で一際明るい光を放ち、人1人が軽く入れる大きな試験管のような物の前で少年は立ち止まる。
後ろの壁には、ぼんやりと鮮やかな花にとまる揚羽蝶の写真が飾られていた。
「まだ眠り続けるの?」
端から見れば独り言かと思われる。彼が言葉を向けた先には、薄黄色をした培養液の中で無数のチューブに繋がれ眠る少年がいた。
勿論それで少年が何か応えてくれる訳もなく――。時折、呼吸に合わせゴボ……と管の通った口端から小さな泡沫を吐くばかり。
試験管の外へ伸びた個体に栄養を送る管の端から、また別の青い液体を半分ほど注入し、再び正面に回り込むと呟く。
「ずっと、待ってるよ」
(君が目覚めるのを――)
――あの頃、毎日のように通いつめていた。
年の頃は9歳か10歳くらいだろうか。白いシャツの襟元に髪の色と同じ艶やかな黒い細めのリボンをあしらい、焦げ茶色のハーフパンツに黒いハイソックスを身につけている。
その少年が向かったのは、屋敷の地下の更に奥へ位置する無機質な暗い部屋。――彼が目覚めた部屋。
暗闇の中で一際明るい光を放ち、人1人が軽く入れる大きな試験管のような物の前で少年は立ち止まる。
後ろの壁には、ぼんやりと鮮やかな花にとまる揚羽蝶の写真が飾られていた。
「まだ眠り続けるの?」
端から見れば独り言かと思われる。彼が言葉を向けた先には、薄黄色をした培養液の中で無数のチューブに繋がれ眠る少年がいた。
勿論それで少年が何か応えてくれる訳もなく――。時折、呼吸に合わせゴボ……と管の通った口端から小さな泡沫を吐くばかり。
試験管の外へ伸びた個体に栄養を送る管の端から、また別の青い液体を半分ほど注入し、再び正面に回り込むと呟く。
「ずっと、待ってるよ」
(君が目覚めるのを――)
