テキストサイズ

【S】―エス―01

第21章 崩壊

 亀裂から無数の気泡が立つ巨大な試験管の中で、彼は黒髪を振り乱しながらもがき、自ら体に繋がれたチューブを外しにかかる。


 その様子を茶色い瞳で見上げながら少年は左斜め後ろへ後退した。すでに、そこに悲しみの色はない。


 やがて耐久性を失った試験管は、音を立てて足元から砕けた。中にいた少年は、一気に流出した培養液と共に雪崩れ落ちて床へ倒れる。


「……げほっ、はぁ……あ、あぁ――!」


 環境の整った試験管の中からいきなり放り出され、寒さで小さく蹲り小刻みにその身を震わせる。


 少年は、一糸纏わぬ彼に置いてあった毛布を羽織らせ言った。


「おはよう。君が起きるのを、ずっと待ってたよ」


 両膝を折り身を屈め、目覚めたばかりの彼に微笑みかける。


「?」


 だが彼は小首を傾げ、黒い瞳できょとんと見つめ返す。目覚めたばかりの少年の心は、赤子のように無垢だった。


 びしょ濡れで顔に貼りついた黒髪の毛先から、水滴がぽたぽたと滴り落ちる。


「さぁ、一緒に行こう」


 微笑みを湛えた茶色い瞳の少年は、すっと自らの右手を差し出す。目覚めた黒い瞳の少年は、差し伸べられたその手を取り立ち上がる。


     **

ストーリーメニュー

TOPTOPへ