テキストサイズ

【S】―エス―01

第21章 崩壊

 

 そう、確証はない。


「これだけじゃ証拠にはならないだろ!?」


 顔を上げ身を乗り出すように視線を刹那へと移し、彼の提示したそれを全力で否定した。


 いや、受け入れられなかったのだ。もしも受け入れてしまったなら、信じてきたものが確実に崩壊してしまうから。


 だが刹那は、くすくすと口元に軽く握った左手を当て笑い言った。


「証拠ならあるさ」


 口元からゆっくりと下ろされた左手の指先は、着ているハイネックシャツの襟にかけられた。そして顔を少し上向きにぐいと左肩から鎖骨、胸部の辺りまでを露にする。


「ほら」


「――!」


 彼が見せつけた左胸のそれに、瞬矢は言葉をなくし目を見張る。


 月明かりに照らされ浮かび上がるそこには、控えめにだが黒字ではっきりとこう刻印されていた。


 ――【S‐06】。


 刹那はぱっと襟から左手を離し、刻印は再び服の下に隠された。下ろした手を後ろへ回し、至って冷静な口調で言う。


「言ったろう? 僕らには名前なんてなかった。そんなのただの記号だって」
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ