【S】―エス―01
第22章 あの日――
答えようとしたが、すぐに押し黙ってしまう。少年には名乗ることのできる『名前』がなかったからだ。
しかし、自分を自分たらしめんが為の『何か』が必要であり、少年が思案に暮れていると――。
「わからないの?」
黙ってこくん、と首を縦に振る。
「じゃあ、私が名前つけたげる!」
白地に小さな花柄のワンピースを着た5、6歳くらいの少女は、「こっちおいでよ」そう言って栗色の長い髪を躍らせ少年が思いもしなかった言葉を放つ。
「……?」
年の頃10歳ほどの少年はゆっくりと少女のもとへ歩み寄り、暖色系の絨毯の上にぺたんとしゃがみ込む。
そしていきなり出された少女の提案に艶(つや)やかな黒髪を揺らし不思議に思い、こてん、と小首を傾げる。
それもそのはず。――名前。そんな概念など、少年の中に存在していなかったのだから。
「んーと……」
だが少女はそんなことお構いなしといった様子だ。
少年の目の前でくりくりとした愛らしい茶色の瞳を游がせ、懸命に『名前』というものを考えている。
やがて少女は、少年が左手首につけていたデジタル式の腕時計のような物に視線を落とす。
しかし、自分を自分たらしめんが為の『何か』が必要であり、少年が思案に暮れていると――。
「わからないの?」
黙ってこくん、と首を縦に振る。
「じゃあ、私が名前つけたげる!」
白地に小さな花柄のワンピースを着た5、6歳くらいの少女は、「こっちおいでよ」そう言って栗色の長い髪を躍らせ少年が思いもしなかった言葉を放つ。
「……?」
年の頃10歳ほどの少年はゆっくりと少女のもとへ歩み寄り、暖色系の絨毯の上にぺたんとしゃがみ込む。
そしていきなり出された少女の提案に艶(つや)やかな黒髪を揺らし不思議に思い、こてん、と小首を傾げる。
それもそのはず。――名前。そんな概念など、少年の中に存在していなかったのだから。
「んーと……」
だが少女はそんなことお構いなしといった様子だ。
少年の目の前でくりくりとした愛らしい茶色の瞳を游がせ、懸命に『名前』というものを考えている。
やがて少女は、少年が左手首につけていたデジタル式の腕時計のような物に視線を落とす。