【S】―エス―01
第22章 あの日――
――
「ねぇ、交換しようよ」
小窓から屋根裏部屋へ日の光が差し込む午後、分身である彼の前にしゃがみ込み、口角をつり上げ片割れの少年は言った。
「えっ?」
いったいなんのことか分からず「何を?」そう訊ねると、彼は自らの左手首にある腕輪を外し、
「これさ」
そう言って目線よりやや下にそれを掲げた。
オレンジ色とも臙脂(えんじ)色ともとれない、色褪せくすんだ絨毯が敷かれた床で、鏡映しのように向かい合う2人。
手入れの行き届かない窓から差す日の光が、埃っぽさを助長する。部屋の端に積まれた本の山が2人を取り囲む。
「もちろん、ずっとじゃない。2、3日おきに取り換えるんだ。そうすれば僕らは互いを共有できる」
瞳の奥を覗き込む彼は、どこか思惑的な笑みで言う。
こうして【S‐06】と【S‐07】は互いの持つ数字を交換した。互いが全てだった彼らは、その『全て』を共有する為に。
つまり数字を交換した時だけ、少年は『もう1人の自分』になれるのだ。
それはまだ名前がない、加えて彼らだからこそできた芸当。