【S】―エス―01
第22章 あの日――
――だがある日のこと。
「僕ね『名前』がついたんだ」
色褪せた絨毯に両手をつき、身を乗り出して嬉しそうに彼は言う。
「……え?」
暖かな日差しの中、それとは正反対に片割れの少年の表情が凍る。
ずっと、2人きりだった世界。変えたのは、1人の少女の存在。
限られた世界に2人きりだった少年は、ただ全てを共有したいと思っただけ。少年は少しばかり視線を手元に落とす。
思えば、目覚めてこの方、何かいいことがあっただろうか。
「名前がついた」そう言い彼が嬉しそうに笑うものだから、その気持ちを表情を壊したくなかった。
――嘆息。凍てつき固まった表情をふっと解き、同じく身を乗り出し訊ねた。
「それで、どんな名前なの?」
黒髪と共に、白いシャツの襟元に結わえられた髪と同色の細く長いリボンが揺れる。
また同時に、彼らが左手首に嵌めている銀色の腕輪が、くすんだ小さな窓から差す太陽光に鈍く煌めいた。
少年は頬を染め、はにかみながら開口する。
「あのねっ――」
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