テキストサイズ

【S】―エス―01

第22章 あの日――

 「しかし――」と言いかけた言葉を飲み込み、思慮深げに固く口を閉ざす。


(『研究』? ……どういうこと?)


 よぎる一抹の不安から、聞こえてしまうのではないか思うくらい心臓が高鳴り早鐘を打つ。


 眼鏡をかけ白衣を着たその人物は窓の外を黙視すると踵を返し、何かを決断したかの如く言い放つ。


「今日から実験を開始する!」


「――!」


 廊下に息を潜めた少年は、その言葉に目を見張り、一瞬びくりと肩を震わせる。


(……知らせなきゃ!)


 ドアへと近づく気配に、少年は足音を殺し、逃げるようにしてその場を離れる。


 彼が腕を振り上げる度に、左手首から覗く腕輪には【S‐07】と彫られた数字がちらつく。


 廊下を走り抜ける中、ある一室の前でふと立ち止まる。


 いつもならさして気に留めないはずの部屋のドアだったが、今日はやたらと胸の奥がざわつく。


 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し開けた。少年は引き寄せられるように一番奥の机へ。


 そこで目にしたファイルに、少年はいつの間にか片割れへ知らせることも忘れていた。


 難しいことまでは分からないが、その中でわずかに読めた文字がいくつかあった。
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ