【S】―エス―01
第23章 覚醒
いつの間にか漏れていた嗚咽。
「やっぱり、泣き虫だなぁ」
からかうようにくすりと笑って、りくはそう言葉を発した。途端、彼は幼い茜の両肩をそっと抱き顔を離すと、潤んだ目を見つめながら口元を緩ませる。
ゆっくりと解けた唇が紡いだ言葉。
「大丈夫、絶対また会えるから。だから――」
「忘れないで」そう言って彼は頬をにわかに染め、にこりと微笑んだ。
**
不意によぎったのは、あの日の記憶。コンクリートの床に転がる、【S‐06】以外に初めて見るもうひとつの数字。
「僕は、誰……?」
そう言い振り仰いだ彼の瞳と、自身の瞳がかち合う。背後から差す月明かりに照らされ、紺色を湛えた双眸の奥に潜む閉じた瞳孔は、不安定に揺らぐ。
彼の問いかけに茜はすぐに答えることができず、押し黙ってしまう。彼が何者か、その答えはとっくに出ていたはずなのに。
――仕草、声、瞳の色。
茜は懸命に記憶の糸を手繰り、あの時見た『彼』を思い出そうとした。だが思い出せるのは断片的な残像ばかり。
「やっぱり、泣き虫だなぁ」
からかうようにくすりと笑って、りくはそう言葉を発した。途端、彼は幼い茜の両肩をそっと抱き顔を離すと、潤んだ目を見つめながら口元を緩ませる。
ゆっくりと解けた唇が紡いだ言葉。
「大丈夫、絶対また会えるから。だから――」
「忘れないで」そう言って彼は頬をにわかに染め、にこりと微笑んだ。
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不意によぎったのは、あの日の記憶。コンクリートの床に転がる、【S‐06】以外に初めて見るもうひとつの数字。
「僕は、誰……?」
そう言い振り仰いだ彼の瞳と、自身の瞳がかち合う。背後から差す月明かりに照らされ、紺色を湛えた双眸の奥に潜む閉じた瞳孔は、不安定に揺らぐ。
彼の問いかけに茜はすぐに答えることができず、押し黙ってしまう。彼が何者か、その答えはとっくに出ていたはずなのに。
――仕草、声、瞳の色。
茜は懸命に記憶の糸を手繰り、あの時見た『彼』を思い出そうとした。だが思い出せるのは断片的な残像ばかり。