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【S】―エス―01

第23章 覚醒

 不意に甦る、10年前のものとおぼしき記憶。


『――では宜しく頼む』


 頭の中に、聞き慣れた声が響く。


 蛍光灯の明かりが煌々と照らす眩い部屋で、彼女の父親、東雲 暁が言う。彼の傍には、麗(うらら)かな午後の陽光のように明るい髪の男が立っていた。


 男の襟元には、十字架に*(アスタリスク)と細やかな装飾が施された金色のピンバッジが光る。


「……っ!?」


 思わずぎゅっと瞼を閉じて、両手で頭を抱え込んだ。


(な、何!? 今の……)


 だが続けざまに『彼は死んだ』という言葉が甦り、思考を断ち切ろうと大きく左右にかぶりを振る。


 茜が動揺を隠しきれずにいる中で、前方からくすりと一笑に伏す声が聞こえてきた。


 それは月光に照らされ、輪郭に陰りが出来ているせいだろうか。


 口角をつり上げ、だが泣いているような笑っているような、実に曖昧な表情で瞬矢を見下ろし、刹那は言った。


「どこにいても、ずっと馴染めず独りでいた。君だってそうだろう?」
 

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