【S】―エス―01
第24章 兄弟
鼻の奥がつんとし、再び両目に熱いものが込み上げる。
だがしかし、それは悲しみからくるものではなく、父親が生きていたことへの喜びや安堵といった複雑な感情からだった。
「いいか? 俺が合図したら部屋の入り口まで思い切り走れ」
「……瞬矢は?」
問いかけてみて初めて自分でもそれが愚問であることに気づく。先ほどの彼の発言と現状からすれば、当然のことだろう。
だが、どうしても問わずにはいられなかった。なぜならば、瞬矢が自分の手の届かないどこか遠くへ行き、永遠に帰っては来ないような気がしたのだ。
「大丈夫。後から必ず……。だから信じて待っていてくれ」
頭(こうべ)を垂れ、蚊の鳴くほどの小さな声で「分かった」と頷く。軽く唇を噛み、両足の真横に指先を添え立ち上がる体勢を取ろうとした時、
「――茜」
不意に呼び止められ、茜は床に指先を触れさせたまま声の主を振り仰ぐ。
「俺はお前のことが……お前の笑った顔が好きだ。だからもし無事に戻ることができたら、その時は――」
滲む視界の向こうで彼が振り向く。
「また、笑顔を見せてくれるか?」
だがしかし、それは悲しみからくるものではなく、父親が生きていたことへの喜びや安堵といった複雑な感情からだった。
「いいか? 俺が合図したら部屋の入り口まで思い切り走れ」
「……瞬矢は?」
問いかけてみて初めて自分でもそれが愚問であることに気づく。先ほどの彼の発言と現状からすれば、当然のことだろう。
だが、どうしても問わずにはいられなかった。なぜならば、瞬矢が自分の手の届かないどこか遠くへ行き、永遠に帰っては来ないような気がしたのだ。
「大丈夫。後から必ず……。だから信じて待っていてくれ」
頭(こうべ)を垂れ、蚊の鳴くほどの小さな声で「分かった」と頷く。軽く唇を噛み、両足の真横に指先を添え立ち上がる体勢を取ろうとした時、
「――茜」
不意に呼び止められ、茜は床に指先を触れさせたまま声の主を振り仰ぐ。
「俺はお前のことが……お前の笑った顔が好きだ。だからもし無事に戻ることができたら、その時は――」
滲む視界の向こうで彼が振り向く。
「また、笑顔を見せてくれるか?」