【S】―エス―01
第24章 兄弟
「……ぐ、が……」
思考を引き戻したのは、背後でその身を横たえ蹲(うずくま)る刹那の呻き声だった。
「……」
瞬矢は無言で振り返り、左肩を押さえ蹲り顔を歪め苦悶する刹那を見下ろす。
「なん……で、殺さない?」
刹那は止めをささない瞬矢の行動に幾ばくかの不満すら滲ませ、苦痛に端麗な容貌を歪めながら薄紫色の瞳で睨み上げた。
刹那を捉える水色の瞳は穏やかな光を宿し、口の端をつり上げた表情が答えを呈示する。
「……刹那」
閉じられていた唇が緩み、ぽつりと言葉を紡いだ。踵を返し向き直ると、床に蹲った刹那と対面する形でしゃがみ込む。
「言ったはずだ。『誰も消させない』って」
2人を取り囲むように深い亀裂が入り、今にも崩壊せんとしているコンクリートの床に腰を据え、胡座(あぐら)をかく。
「俺はお前がどう思ってようと、今まで弟だと思ってきた」
「それに――」と続ける言葉は、どこか諭すような口調。
「心はいらないって言ったよな? でもお前は俺のことを憎み、妬み、疎ましく思ってくれた。それが分かった時、嬉しかった」