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【S】―エス―01

第25章 白日のもとに

 
「彼らに、あなたたちの代役となってもらったわ」


 静かに話し終え、香緒里は半目し視線を右へと滑らせ押し黙る。


 かつて同じ『人』であり息づいていたものが、当然と物のように廃棄されてゆく事実。死体を見慣れていない訳ではないが、当時のことを思い出し、にわかに戦慄を覚える。


 ――『感情を持たない殺人兵器』


 不意に、あの倉庫での刹那の言葉が頭をよぎる。


 警察上層部は初め【S】の件に深入りするなと言ってきた。


 ならば上は、このことについて何かを知っているのだろうか。もしかすると刹那は、無意識に伝えようとしていたのではなかろうか……と。


 重苦しい空気が病室内に漂う。


「真実を全て明るみにすることだけが正しいとは限らない」


 それは考慮に考慮を重ねた末、香緒里の下した結論だった。


「もしこのことが公に知られれば、どんな目で見られるかしら? あなたたちも、そして彼女も……ね」


 閉口した香緒里は思う。


 今も昔も変わらず、自分と少し違うだけで奇異と好奇の対象に扱われる。そして父はそのことを知り、悩み抜いていたのではないかと。
 

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