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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 そこは公園の遊歩道脇。舞い散る花びらに誘われ、ふと見上げた先に映るのは、鮮やかに咲き誇る桜並木だった。


(……桜? もう、そんな季節か……)


 右足を前へ踏み出したその時、わずかに温かく、重みのある感触が踏み出した足に当たる。視線を桜並木から足元に落とすと、地面に転がるスーツ姿の男。


 足に当たったのは、男の右大腿部。


 男の体から地面に赤黒く染み込むそれは止まることなく溢れ、足元へと広がる。


 それは自身が犯した、拭い去れない罪の記憶。


「あああ…………!」


 叫喚と共に彼の見ている世界は霞み、くらり暗転した。




「――っ!」


 声にならない声と共に、刮目した刹那はベッドから飛び起きる。


 夕暮れ時で、まだ照明をつけずとも明るかったはずの部屋は、いつの間にか闇が迫り薄暗くなっていた。


 随分、魘(うな)されていたのだろう。額から頬にかけてうっすらとかいた汗に、細く何束かの髪の毛がべったり貼りついている。


 左手で視界を覆い右の口の端をつり上げ、ふ、となんとも自嘲的な笑みを覗かせる。
 

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