無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　刹那は先ほど手渡された紙きれに視線を送る。


「……『レディ・メイ』？」


　彼女は『Ｌ・Ｍ』のことを知っているのだろうか。訊き返すと同時に女は口角をつり上げ、にっこりと端麗な笑みを浮かべて肯定した。


　左の目元に位置する小さな黒い点、所謂、涙黒子(なみだぼくろ)が謎めいた彼女の存在を引き立てる。


　すぐ傍では男たちが、「乾杯！」とジョッキを掲げ、陽気に地ビールの呑み比べを始める。


　刹那たちは入り口から一番奥のテーブル席に座り、改めて話を切り出した。


「――で『レディ・メイ』だっけ？　知ってるって、本当に？」


　そう、真向かいに座る彼女へ訊ねる。敷いてある紙製のコースターの上にグラスの水滴が伝い落ち、中で溶けた氷がカラリと鳴った。


「ええ。ワタシも彼女には世話になったから」


　彼女は俯きがちにそう言い、瞳の奥に一瞬だが暗い陰りを見せる。


　後ろでひと纏めにした黒髪が、オレンジ色の照明を受け艶めく。


　額から頬にかけて緩やかな曲線を描くように流した前髪だけが静かに躍動し、彼女を印象づける。