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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 今、目の前に座っている女は、レディ・Mのことを『彼女』――そうはっきりと断言した。やはり、依頼人は女性だったようだ。


 彼女とレディ・Mがどのように知り合ったか。


 刹那も、その点においては少しばかり気になりはした。が、今は下手にその経緯や関係性について言及しないでおこう――そう思ったのである。


 一時の間を置き、彼女はグラスに視線を落としたまま、やけに神妙な面持ちで言葉を切り出した。


「ひとつ、ワタシの頼みを聞いてくれないかしら?」


「頼み?」


 突拍子もなく吐き出された言葉に、小首を傾げて刹那が訊き返す。


 すると彼女は、やおら切れ長のその瞳を向け、思いもよらぬことを宣(のたま)ったのだ。


「ある人物を殺してほしいの」
 

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