
【S】―エス―01
第27章 消えない過去
彼女の涼やかで低めな……それでいて玲瓏と囁く声に、これでもかというほど茶色い双眸は見開かれ、刹那の中で時が止まる。
後方で響くヒールの音に再び刹那の時は動き出し、スロー再生するかの如く瞳を見開いたまま振り返る。
すでにそこに彼女の姿はなく、わずかに確認できたすらりとした後ろ姿は店内を賑わす客の波に飲み込まれ、やがて外の通りへと消えていった。
正面に向き直り、彼女が差し出したテーブルの上のコースターを見やる。そこには、彼女の所在と連絡先が記されていた。
――午後10時05分。
【306】のドアを開け、部屋に戻った刹那の手には、先ほどの店にあった紙製のコースターが握られていた。華やかなイラストの入ったその裏側には、彼女の連絡先が書かれている。
名を『リン』というらしい彼女もまた、この街に在住しているようだ。
店でのやり取りを思い出し、深い溜め息をつく。
どんなに忘れようとしても、やはり過去はついて回る。本当の意味で自身の過去と向き合うならば、この依頼を引き受けるしかない。
後方で響くヒールの音に再び刹那の時は動き出し、スロー再生するかの如く瞳を見開いたまま振り返る。
すでにそこに彼女の姿はなく、わずかに確認できたすらりとした後ろ姿は店内を賑わす客の波に飲み込まれ、やがて外の通りへと消えていった。
正面に向き直り、彼女が差し出したテーブルの上のコースターを見やる。そこには、彼女の所在と連絡先が記されていた。
――午後10時05分。
【306】のドアを開け、部屋に戻った刹那の手には、先ほどの店にあった紙製のコースターが握られていた。華やかなイラストの入ったその裏側には、彼女の連絡先が書かれている。
名を『リン』というらしい彼女もまた、この街に在住しているようだ。
店でのやり取りを思い出し、深い溜め息をつく。
どんなに忘れようとしても、やはり過去はついて回る。本当の意味で自身の過去と向き合うならば、この依頼を引き受けるしかない。
