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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 もう一度先ほどの場所を見ると、少年の姿は跡形もなく消えていた。


「……?」


 首を捻りながらも重い扉を開け中へと足を踏み入れる。


 そこは、外観からは想像もつかない……まるで別世界だった。厳かな雰囲気と調和する天井画は、思わず見る者の目を奪う。


 自分の他に何人かいるのを見たところ、どうやら一般観光客にも開放されているようだ。至って変わったところは見受けられない。


 通りを挟んで一番近くにある教会だが、ただそれだけで、ここではなかったのかもしれない。そう結論づけ踵を返した時――。


 ひらり。一頭の蝶が刹那の左頬を掠め去る。


「――!」


 屋内であるにも関わらず漆黒の翅でひらひらと舞うその存在感たるや、刹那の注意を引き振り向かせるのに十分だった。


(黒い……蝶? しかも屋内に……?)


 足を止め振り向いた先に蝶はおらず、代わりに1人の茶色い髪をした子供が、観光客の脇を掻い潜り走り去る姿を捉える。


 それは、先ほど教会の前で見たあの少年だった。


 他の者には彼が見えていないのだろうか。


 少年の足音には、全くと言っていいほど重さが感じられない。
 

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