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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 途端、纏う空気ががらりと変わり、刹那の醸し出す雰囲気に周囲の木々はざわめき大気は打ち震える。


 瞼を持ち上げ薄紫色の瞳となった彼は、ぐっと土を踏み締め低く屈み、勢いをつけ地を駆った。


 木々の合間から覗くネッカー川を横目に、俊足緩めることなく下流へと突き進む。


 山間を大蛇がその体をうねらせているかのようにぐにゃりと湾曲し流れる川。時折、赤煉瓦の屋根をした民家らしきものが窺える。


 細い国道が通るその川辺に下り立つと、周囲を見渡す。おおよそ事件があったと思われる場所には、まだ血痕が生々しく付着していた。


 そこに再び意識を研ぎ澄ませ刹那が視たのは、最も疑いたくない可能性だった。


『この事件の犯人を見つけ出して殺してほしい』


 依頼内容が脳裏を掠め去る。


 少年はこの川辺で男を殺し、無表情にそれを眺めている。だらんと下ろした右手の先からは鮮血が、ぽたり、ぽたりと滴っていた。


(まさか、この子を殺せと……?)


 内心自問する中、一切の感情が窺えない返り血を浴びた顔でこちらに振り返る。自分そっくりな少年。
 

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