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【S】―エス―01

第4章 あかねいろ

 空はからりとした晴天で吹き抜ける風が心地よく、それでも街を行き交う人波は相変わらずせわしない。


 茜はというと、携帯で何やら話をしている。


 ――20分後、嫌な予感は見事に的中した。


 立ち竦む瞬矢は目の前に聳える大きな白い建物を、ぽかんと見上げる。


「病院?」


 聳える建物の正体。それが分かった瞬間、眉をひそめて怪訝そうに呟く。


 瞬矢は病院が苦手だ。消毒薬の匂い、白衣、どれも彼にとって馴染めないものばかりだった。


 それがなぜなのかは分からないが、昔からこの場所だけは慣れなかった。


 エレベーターを降り、すぐ側にある4人部屋の病室。その入り口には『東雲 夕子(しののめ ゆうこ)』というネームプレートが掲げてあった。


(『東雲』……彼女の身内か?)


 立ち止まりそのプレートを目にした瞬矢は、内心独りごちる。


 病室へ入ると、向かって一番右奥、窓際のベッドに彼女はいた。


「お母さん!」


 数歩前に進み出た茜は、やや跳ね上がるような口調でその人を呼ぶ。どうやら、彼女の母親らしい。
 

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