
【S】―エス―01
第27章 消えない過去
午後7時10分。
一度ミュンヘンに戻った刹那は、再びリンとの接触を図る。
本来、10月ならばオクトーバーフェストでテントが立ち並び人々で賑わう市内の広場も、シーズンオフの為か閑散としている。
木々の合間から、上弦の三日月が遊歩道を照らす。
月明かりと外灯で仄かに明るいその遊歩道を歩きながら、刹那は自分そっくりな褐色の瞳を持つ少年のことを話した。
「アザム教会でその少年を視たよ。もしかして君は初めから犯人を知ってたんじゃないのかい?」
知っていて、あえて依頼した――そう後方をついて歩くリンへとおもむろに切り出す。
「教会の壁に彫ってあった『L・M』の筆跡。それに、事件の起きた下流の現場周辺に、君とその少年の痕跡があった」
背後を歩く彼女の足音がぴたりと止まり、明らかに怪訝そうな声色で問う。
「さっきから、何が言いたいの?」
それに伴い、刹那もまた歩みを止める。
「君はレディ・メイを知っていた。あの少年のことも。それにあの筆跡……。リン、君は何者なんだい?」
