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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 踵を返し問い質す刹那に対して、リンは半目し口の端からふっと息を漏らすと答えた。


「……いいわ、教えてあげる。ただ、条件としてアナタの力を見せてくれたら……だけど」


 条件つきの疑問に対する答えの呈示。それは、自身の持つ能力を見せろというものだった。


 あまりにも突飛な条件に、刹那は眉をひそめ嫌悪を示す。


「嫌なら別にいいのよ。その代わり、アナタの知りたい情報は得られなくなるけど」


 体ごとふいと顔を背けた彼女の台詞に、刹那はしばし黙考する。


 目的は分からないが、今のところ彼女の呈示した条件を呑むよりないのかもしれない。


「力、ね……」


 俯きがちにぽつり呟く。そして、数歩前へ歩み出た刹那は360度見回して辺りに人がいないことを確認し、「分かった」とリンの方へ向き直る。


 目を閉じ、ふわりと重力を忘れた彼の黒髪が靡く。刹那を中心に生じた風により、木々の枝葉や芝が静かにざわめき立つ。


 次に瞼を持ち上げた時、その瞳は茶色から淡く光を帯びた薄紫色に変わっていた。




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