
【S】―エス―01
第27章 消えない過去
◇4
枯れ枝や小石、石畳の破片などが彼の周囲に浮遊し、その内のひとつを右手の先で指し示す。大きさにして3、4センチメートルほどの石粒はくるりと向きを変え展開される。
「――ッ!」
薄紫色の瞳に宿る瞳孔は縮小、刮目し前方へさっと突き出す。
弾かれた石の礫(つぶて)は空を裂き、直線的な軌道を描いてすぐ後ろにある樹木の幹を穿(うが)ち、芯にまでめり込む。
『大切な人を君から奪ったのは、この男だよ』
刹那への憎しみを駆り立てる引き金となった言葉がリンの頭の中で幾度となく反響し、よぎり、右手をわずかに後方へ引く。
感情を持たぬ冷酷無比な殺人鬼。そう聞かされ、そう思うことで己の中に燻る憎悪を高め、確固たる意思が決して揺らがぬよう強く保とうとした。
瞼を閉ざすと張り詰めた空気は嘘のように消え、辺りは何事もなかったかの如く静寂に包まれた。
「これで満足かい?」
だが彼は決して自らの能力を必要以上にひけらかす訳でもなく、むしろ伏したその茶色い双眸はどこか物悲しささえ湛え、揺らめいて映る。
枯れ枝や小石、石畳の破片などが彼の周囲に浮遊し、その内のひとつを右手の先で指し示す。大きさにして3、4センチメートルほどの石粒はくるりと向きを変え展開される。
「――ッ!」
薄紫色の瞳に宿る瞳孔は縮小、刮目し前方へさっと突き出す。
弾かれた石の礫(つぶて)は空を裂き、直線的な軌道を描いてすぐ後ろにある樹木の幹を穿(うが)ち、芯にまでめり込む。
『大切な人を君から奪ったのは、この男だよ』
刹那への憎しみを駆り立てる引き金となった言葉がリンの頭の中で幾度となく反響し、よぎり、右手をわずかに後方へ引く。
感情を持たぬ冷酷無比な殺人鬼。そう聞かされ、そう思うことで己の中に燻る憎悪を高め、確固たる意思が決して揺らがぬよう強く保とうとした。
瞼を閉ざすと張り詰めた空気は嘘のように消え、辺りは何事もなかったかの如く静寂に包まれた。
「これで満足かい?」
だが彼は決して自らの能力を必要以上にひけらかす訳でもなく、むしろ伏したその茶色い双眸はどこか物悲しささえ湛え、揺らめいて映る。
