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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 リンは肯定するようにひとつ頷き口を開く。


「アナタの言ったとおり、少年のことも初めから知ってたわ」


 リンの言葉に刹那はやはりと目を丸くする。「なぜ教えなかった?」そう言う彼の眉間には皺が寄っていた。


 刹那の見せた表情に、少し顔を伏せリンは思う。


 感情がないという割にはころころとよく表情を変える男だ、と。口の端を軽くつり上げ、歩み寄る。


「その顔――」


 半目した瞳で、自分よりも10センチメートルほど目線が高い刹那の顔を見上げるように覗き込む。


 右手の指先で刹那が着ているコートの襟を摘まみ、つい、と下に滑らせながら言った。


「本当のことを知った時のアナタの反応が見たかったから、かしら?」


 不敵な微笑を湛えたまま、するりとコートの襟から手を引き後ずさる。


 今は亡き大切な人の敵(かたき)であり、本来ならば憎むべき相手でありながら、リンは刹那に対し多少の興味を示し始めたのだ。
 

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