テキストサイズ

【S】―エス―01

第28章 愛憎の刃

 刹那は向かって左斜め前に立ち、目の前の座っているリンの話をただただ黙って聞いていた。


 空気は重たく張り詰め、時折、広場の向こう通りから車のクラクションが聞こえ、静寂を打ち破る。


 堰(せき)を切ったかのように、俯きがちな彼女は再び話しだす。


「アナタの詳細について、だいたいは『彼』から聞いた……」


 そしてこう続ける。


「教会の壁に『L・M』の文字を残したのは、敵(かたき)であるアナタに気づかせる為」


 「まさか、こんなに早く辿り着くとは思わなかったけど」そう言い半目していた瞳は一瞬見開かれ、それは見上げるようにわずかな冷笑を湛え刹那へと送られた。


 その視線に刹那は、ネッカー川下流域の現場で残像として視た彼女の目を思い出し、そこにかつての自身を重ね、そしてあるひとつの考えに至る。


 リン・メイ――彼女もまた、自分と同類なのかもしれない。


「僕のことが憎いかい?」


「……っ」


 刹那の問いに、リンは俯いたまま言葉を噛み殺し黙って両手を握り締める。訊くまでもない、分かりきった問答。
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ