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【S】―エス―01

第28章 愛憎の刃

 ふ、と緩めた口の端から息を漏らし、視線を左下の芝生に移す。ポケットから一枚のメモ用紙を取り出し刹那は言った。


「いつでも来なよ。僕は逃げも隠れもしないから」


 ベンチから立ち上がる音が聞こえ、恐らくこちらを見やっているだろうリン・メイの視線を背に受けながら、ひらりと手を振る。


 ――午後8時40分。


 広場を抜け、目の前に真っ直ぐ伸びた通りを歩く。


 綺麗に舗装された足元の歩道に視線を落とし、刹那は思う。いずれ――そう遠くない未来、彼女は自分に刃を向けてくるだろうと。


 だがそれもまた、自らの背負ったひとつの罪の形なのかもしれない。そう自嘲気味に天を仰いだ。



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