
【S】―エス―01
第28章 愛憎の刃
◇2
それから4日後の、3月30日。
午後9時10分。今、彼女が立っているのは、くすんだ金色で【306】と標されたドアの前。
その【306】の数字をじっと見据え、手にしていたメモ用紙をぐしゃ、と握り潰す。
呼び鈴を鳴らすと共に姿を現した彼は一瞬目を見開き、だがすぐさま理解したかの如く薄い笑みを浮かべドアを開く。
ここへやって来た目的も理解しているだろうに。逃げも隠れもしない――その言葉どおり安易に招き入れた彼は、くるりとこちらに背を向けた。
気づけばポケットから取り出した折り畳み式ナイフの刃を眼前の人物に向け、駆け出し牙を剥く。
鈍い音と共に振り向いた刹那の衣服を貫き深々と食い込んだ刃先からは、ぽたり、ぽたりと赤い水滴が伝い落ちる。
刹那はわずかに眉をひそめるが、すぐさまナイフの刃ごとリンの手を掴み引き抜いた。
壁に押しつけられたリンは、鋭く刹那をねめつけたまま低くこう言う。
「離せ、人殺し……!」
「……そうさ。僕は人殺しさ」
それから4日後の、3月30日。
午後9時10分。今、彼女が立っているのは、くすんだ金色で【306】と標されたドアの前。
その【306】の数字をじっと見据え、手にしていたメモ用紙をぐしゃ、と握り潰す。
呼び鈴を鳴らすと共に姿を現した彼は一瞬目を見開き、だがすぐさま理解したかの如く薄い笑みを浮かべドアを開く。
ここへやって来た目的も理解しているだろうに。逃げも隠れもしない――その言葉どおり安易に招き入れた彼は、くるりとこちらに背を向けた。
気づけばポケットから取り出した折り畳み式ナイフの刃を眼前の人物に向け、駆け出し牙を剥く。
鈍い音と共に振り向いた刹那の衣服を貫き深々と食い込んだ刃先からは、ぽたり、ぽたりと赤い水滴が伝い落ちる。
刹那はわずかに眉をひそめるが、すぐさまナイフの刃ごとリンの手を掴み引き抜いた。
壁に押しつけられたリンは、鋭く刹那をねめつけたまま低くこう言う。
「離せ、人殺し……!」
「……そうさ。僕は人殺しさ」
