
【S】―エス―01
第29章 S‐145
渓谷から吹き上げる4月初旬の冷たく乾いた風にコートの端と髪を靡(なび)かせ、刹那はぐるりと辺りを一望する。
そして口角をくっとつり上げると、クイズでも出すかの如き口調でそれに答えた。
「寒いけど、とても見晴らしのいいところ……かな」
そして少しだけあの頃の景色に似た場所――心の中でそうつけ足す。携帯を離し画面上の時刻を見ると、午前4時20分を示していた。
(……そろそろ時間だ)
「じゃあ、またね」瞬矢は向こうでまだ何か言っていたが、構わず終話した。
(相変わらずだな、兄さんは……)
「さて、と。行くか……」
思ったこと、感情を全面に出してくるところは相変わらずだと刹那は口の端を緩ませ笑い、コートのもとあった場所に携帯を仕舞う。
代わりにメモを取り出しそこに一度目を落とすと、ぐしゃりと握り潰す。
――自分とあまりにもそっくりな、けれども日本人のそれより薄い褐色の瞳をした少年。
振り切れない可能性に苛(さいな)まれながら、それでも刹那は暗に願う。何かの間違いであってほしい――と。
そして口角をくっとつり上げると、クイズでも出すかの如き口調でそれに答えた。
「寒いけど、とても見晴らしのいいところ……かな」
そして少しだけあの頃の景色に似た場所――心の中でそうつけ足す。携帯を離し画面上の時刻を見ると、午前4時20分を示していた。
(……そろそろ時間だ)
「じゃあ、またね」瞬矢は向こうでまだ何か言っていたが、構わず終話した。
(相変わらずだな、兄さんは……)
「さて、と。行くか……」
思ったこと、感情を全面に出してくるところは相変わらずだと刹那は口の端を緩ませ笑い、コートのもとあった場所に携帯を仕舞う。
代わりにメモを取り出しそこに一度目を落とすと、ぐしゃりと握り潰す。
――自分とあまりにもそっくりな、けれども日本人のそれより薄い褐色の瞳をした少年。
振り切れない可能性に苛(さいな)まれながら、それでも刹那は暗に願う。何かの間違いであってほしい――と。
