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【S】―エス―01

第4章 あかねいろ

 ――201X年 4月7日。


 午後2時過ぎ。


 その日、瞬矢は関係者の1人である渡辺 真理(わたなべ まり)のもとを訪れていた。


 彼女は10年前、茜の父親である東雲 暁(しののめ あきら)の製薬会社を去った後、生物学研究所の教授となっていた。


「おー、やっぱすげーな」


 振り仰ぐように一面ガラス張りの建物を見上げ、感嘆の声を漏らす。


 ガラスはマジックミラーになっているらしく、当然中の様子は窺えない。


 「よしっ!」と気合いを入れ直し、施設の正面玄関をくぐる。


「教授は多忙な為お会いになれません」


 ある程度想定はしていたが、予想通りの受け付けの対応に一度退くことを決めた。


「何か分かるといいんだが……」


 施設内を出ると入り口の2、3歩ほど先で足を止めて振り返り、再度全面ガラス張りの建物を見上げ呟く。



 再び研究所を訪れると裏口に、写真と酷似した長い髪を纏め上げ、ノーフレームの眼鏡をかけた1人の女が歩いて来るのが窺えた。


「渡辺 真理だな?」


「誰!?」


 街灯の明かりを避けるように暗闇からわずかな輪郭を覗かせる。瞬矢の姿を確認しようと目を細める。
 

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