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【S】―エス―01

第29章 S‐145

 そして、壁に埋め込まれたオレンジ色の照明の光があまり届かない十字路の先へと、咲羅の手を引き駆け込み身を隠す。


 遠くより聞こえる複数の足音。近づく気配に咲羅の手を引いたまま通路の陰へ息を潜ませる。


 近づく足音は次第に数を増す。いつまでもここにいたところで仕方がない。


 自身の背後で小さく蹲(うずくま)る咲羅に動揺を与えまいと、口の端を緩ませて視線を送り、意識下で訊ねた。


《他に、逃げ道はないかい?》


 すると咲羅は、真っ直ぐ今来たばかりの道を指差した。


《あっち。確か外に出られる》


 言霊を受け取った刹那はゆるりと微笑み、ぽん、と咲羅の頭に左手を置く。


「……ダンケ」


 刹那のその言動に、咲羅は褐色の瞳に光を宿しわずかに揺らめかせた。


 頭からするりと左手を退けた刹那は、彼が指差した方へと向き直り瞑目し、意識を集中させる。すると瞳は淡い光を宿した薄紫色へと変貌し、がらりと纏う空気を変えた。


 もと来た道を通り過ぎ、更に奥へと水溜まりを跳ね駆った時――。


「いたぞこっちだ!」
 

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