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【S】―エス―01

第29章 S‐145

 静かに鋭くそう言い右手を払った途端、向きを変え、標的を変えた銃弾が堰(せき)を切ったかの如く放たれた。


 それらは通路の岩を削り、肉を貫き裂く銃弾は点滅するオレンジ色の照明のもと、辺り一面に赤い鮮血を散らす。


 次いで身を屈めると、ひょいと咲羅を小脇に抱き上げ軸足を右へ置き回転を加えながら、続けざまに後方の弾丸を弾く。


 時間にしてものの数十秒。


 銃声が止み再び静寂に包まれた時、辺りは弾痕と死体の山と化していた。刹那はその中心に佇み、ゆっくりと抱えていた咲羅を下ろす。


 幸か不幸か、急所を外し生きながらえた者は、地べたに蹲(うずくま)り、あるいは壁に身を寄せ低く呻き声を上げている。


 咲羅はそろそろと壁際まで歩み寄り、寡(か)黙にそれを見続けた。


「…………」


 銃創からは鮮血が溢れ、衣服は赤黒く染まっている。咲羅は目を見張り、見下ろすようにしてその命の終(つい)の瞬間をじっと眺めていた。


 別段何をするでもなく、ただ見開いた瞳で彼を眺め、無表情に不思議なものでも見るかの如く小首を傾げる。


 それはあの暗く冷たい部屋で、自らが足元へ散らした蝶の残骸を見下ろすかのように。
 

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