【S】―エス―01
第29章 S‐145
死への無頓着、どこか狂気じみた眼差し。
その全てを映した瞳を、衛兵の1人がいまわの際に見ていたことを刹那は知らない。
「……咲羅?」
数歩先を行く刹那の呼びかけにはっと振り返りとたとた駆け寄ると、ぴたり、一時体を寄り添わせすぐに顔を離し刹那を見上げた。
そこに、先ほどまでの冷たく狂気を孕んだ表情はない。
刹那の手を引きこっち、と反対の手で示しながら真っ直ぐ伸びた通路の奥へ駆け出す。
――午前5時05分。
東の空はすでに明るみ始めていた。城の塔から見える山並みが、日の光にくっきりと輪郭を浮き上がらせる。
「準備はいいかい?」
そう言い更に目線で問う。それに応えるように咲羅は刹那の背におぶさりコートをしっかりと掴み、高々と声を上げた。
「Ja(ヤー)――!」
その一声を合図に、刹那は地を蹴り城の外壁より跳躍した。それは決して将来を悲観したものではなく、まだ見ぬ未来へ向けての跳躍。
4月3日の早朝。刹那と褐色の瞳の少年――咲羅の2人は、ネッカー川対岸の森へと姿を消した。
**
その全てを映した瞳を、衛兵の1人がいまわの際に見ていたことを刹那は知らない。
「……咲羅?」
数歩先を行く刹那の呼びかけにはっと振り返りとたとた駆け寄ると、ぴたり、一時体を寄り添わせすぐに顔を離し刹那を見上げた。
そこに、先ほどまでの冷たく狂気を孕んだ表情はない。
刹那の手を引きこっち、と反対の手で示しながら真っ直ぐ伸びた通路の奥へ駆け出す。
――午前5時05分。
東の空はすでに明るみ始めていた。城の塔から見える山並みが、日の光にくっきりと輪郭を浮き上がらせる。
「準備はいいかい?」
そう言い更に目線で問う。それに応えるように咲羅は刹那の背におぶさりコートをしっかりと掴み、高々と声を上げた。
「Ja(ヤー)――!」
その一声を合図に、刹那は地を蹴り城の外壁より跳躍した。それは決して将来を悲観したものではなく、まだ見ぬ未来へ向けての跳躍。
4月3日の早朝。刹那と褐色の瞳の少年――咲羅の2人は、ネッカー川対岸の森へと姿を消した。
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