【S】―エス―01
第30章 日本へ……
それから2ヶ月余りが経過した、6月中旬。
咲羅は物覚えがよく、片言ながら言語を理解し話せるようになっていた。
「ねー」
2ヶ月以上前に拾い共に過ごしている静かな小鳥の呼びかけに振り返り、その声の主、咲羅を見やる。
「これ、セツナ?」
咲羅はテーブルの上に置かれている携帯の待受画面に映し出された画像を示す。そこの左側に映るはにかんだ人物。
「ああ、そうだよ」
返答し咲羅の傍へ歩み寄る。
「セツナが、2人……?」
ひとつの写真の中に全く同じ顔の人物が2人もいることが不思議で堪らないのだろう。携帯のディスプレイ画像を見つめ、しきりに小首を傾げている。
刹那はその様子を見てくすりと笑い、咲羅の頭に右手を置くと人物を示して教えた。
「こっちは『瞬矢』。兄さんだよ。それからこっちが『茜』――」
咲羅は「シュンヤ! アカネ!」と指で交互に画面上の人物を差し示し、声高らかに彼らの名前を繰り返す。
感情豊かと言うにはまだまだ不十分だが、最初に会った頃よりも幾分か楽しそうで、無邪気なその姿に頬を緩める。