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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 ハロルドは満足げに口の端をつり上げ、顎を掴んでいた左手の親指で下唇を準える。


「いい子だ」


 眼鏡を外し体を引き寄せ、半ば強引に唇を重ねる。ふわりと宙に翻る白衣が一瞬2人を覆い隠した。


「ふ……っ」


 呼吸すらままならず、受け入れるだけの体は意思に反して実直。再度芯から熱を帯び、頬はにわかに紅潮してゆく。


 背後に回された彼の右手が、スカートを手繰り、這うように肢体へと滑り込む。


「んぅ……っ……」


 重ねた口の端から色のついた息が漏れ、溢れた一滴が目元の黒子(ほくろ)を濡らし去った。


 リンは心のどこかで行為に対する違和感を覚えながらも、決して彼の言動には逆らえないのであった。


 それは見えない呪縛にも似た何か。きっと捕らわれてから初めて気づく、蜘蛛の糸のようなもの。


 いつの間にか指先にまで絡みつき、自らの意思で動かすことすらままならない。


 熱を帯びた体と麻痺してゆく思考の中、リンは思う。


(……きっとワタシはこれから先も、この男から逃れられない……)



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