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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 
 午後8時50分、ミュンヘン空港。


 ここへ来る前もそうであったが、何かにつけて「わぁー!」や「おー!」など咲羅は終始感嘆の声を上げている。


 初めて見る物の数々に瞳を輝かせるその姿は、出会った時からは考えられないくらい無邪気なものだ。


 搭乗口付近。


 いつもならぴったりと後をついて来る咲羅の気配がない。立ち止まり振り返ると、数歩後ろで1人佇み床に視線を落とす咲羅の姿があった。


「どうしたんだい?」


 俯き垂れた茶色い髪に表情を隠す彼は、疑心混じりにどこか確かめるような口調で訊ねた。


「セツナは、僕を利用したりしないよね?」


 その言葉に刹那は目を見開く。


 そんなこと、考えずとも分かりきっていた。ふっと一笑に伏せ開いた距離を詰める。


 ぽんと咲羅の頭に手を乗せ、問いかけに対し答えを呈示する。


「ああ、勿論さ」


 すでに搭乗が始まった空港のエントランスで、俯く咲羅の体をそっと抱き締めた。
 

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