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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 10分後、機体は地を離れ、体にふわりと一瞬の浮游感を与える。


「おぉー!」


 離陸するや否や、窓に両手を張りつけ目を見張り再び乱れ飛ぶ感嘆符。飛行機が旋回する様子にいたく感服しているようだ。


(ほんと、驚いてばっかりだな)


 その様子を見て刹那は、自身の内に沸き上がる温かな思いを感じながらくすりと笑う。


 しかし、驚きすぎてかえって疲れるのではなかろうか。


「咲羅、酔うよ」


 そんな忠告を聞いてか聞かずか、咲羅はしばらく真っ暗な外の景色を眺めていた。


 暗闇の中で、滑走路の点滅する光と眼下に見える街の明かりが遠のく。



 21日、午前11時40分――日本。成田空港へ降り立った2人を、湿度の高い纏わりつく空気が歓迎した。


「暑……」


 空港内は幾分空調が効いているものの、やはりむわりとした空気は変わらない。堪らず丸首のシャツのゆったりとした襟元を摘まみ風を送る。


「あつー!」


 それを見た咲羅もやはり暑いのか真似して襟元を摘まみ、ぱたぱたと服の間に風を送っている。
 

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