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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 日本と今までいたミュンヘンでは、夏でも平均気温が10度くらいは違う。湿度に至っては亜熱帯に来たと思えるほどの差だ。


 以前はそう思わなかったが、改めて欧州との気候、湿度の違いを思い知らされる。


 咲羅はというと、未だに外界への興味が引かないのか、傍らできょろきょろと辺りを見回していた。その姿に、くすりと頬を緩める。


「さて、と……」


 こちらの到着を知らせるべく手提(さ)げ鞄から携帯を取り出し電源を入れ、履歴から兄――瞬矢の番号を呼び出す。


 数回の連続した機械的なコール音の後、ぷつり留守番電話へと切り替わる。刹那は肩を竦め、小さくひとつ息をつき携帯をポケットに仕舞う。


(……しょうがない)


 咲羅を見て瞬矢たちは驚くだろうか、きっと彼らなら受け入れてくれるだろう……などと考えていると、傍らで袖口をぐいぐいと引っ張る存在が。


「セツナぁー、早くいこー?」
 

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