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【S】―エス―01

第4章 あかねいろ

 
(……なんだ、それは? いったい……何を!?)


 だが人物は押し黙ったまま、暗闇の中でも綺麗な水色を放つその液体を躊躇(ためら)いなく瞬矢の右腕に注射した。


 吐き気も割れるような頭の痛みも、瞬く間に引いてゆくのが分かった。


 やがて閉じきった瞳孔はすうっ……と開き、淡く光を宿した両目の青色も、本来の深みを帯びた濃紺へと変わってゆく。


 再度瞳孔を覗き込み、小さく頷くと一言。


「あんな場所で『力』を使うんじゃない」


(『力』……?)


 目の前の人物は尚も低く、それでいてとても落ち着いた口調で言った。


「もう、この件には関わるな」


 人物が誰なのかも、言っている言葉の意味すら理解できないまま意識は遠のき、やがて一時の闇に落ちていった。


 ――そして、現在。


 視界を遮っていた右手をどかし、しばし眺める。


 特にこれといった変化はない。むしろ、頭の中がすっきりしているくらいだ。


 少なくとも、あの暗がりにおいてあれほどまでに鮮明な光を放つ薬品を、瞬矢は未だかつて見たことがなかった。


 そう、例えるなら暗闇で光るペンライトのような……。
 

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