テキストサイズ

【S】―エス―01

第4章 あかねいろ

 ただ、あの時暗がりの中で聞いた人物の声はどこか懐かしく、それでいて身近なそんな気がした。


(……どっかで、会ったか?)


 突然、沈黙を打ち破る間の抜けた音で思考はふっ飛び我に返る。


「ふっ……」


 時も場所も、空気すら読もうともしない腹の虫に瞬矢は思わず苦笑する。


「さて……と」


 のそりと立ち上がると瞬矢は独り言のように呟く。ドアを開け、いつもの日常へと戻っていった。


 だが――、自分に射たれた薬品がどんなもので、何の為のものなのか。


 それは、瞬矢の心に決して拭い去ろうことのできない染みとなって留まり続けた。



     **

ストーリーメニュー

TOPTOPへ