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【S】―エス―01

第31章 ハローバイバイ

 ソファで眠る咲羅をちらと見やり、そう静かに胸中を語った。その言葉に、瞬矢は顔前で組んでいた両手のうち右手だけを下ろす。


「お前、変わったな」


 一度は見張った目を思案顔で細め言う瞬矢に対して刹那は、「何言ってるの」と一笑に伏せ、椅子に片方の肘をついたままこう続ける。


「僕を変えたのは、兄さんでしょ」


 伏せていた瞼をすっと持ち上げ、真っ直ぐ瞬矢を見据えた。揺らめく茶色い双眸に温かい光を宿して見えたのは、決して部屋の明かりのせいだけではない。


「俺が?」


 瞬矢の投げかけに、眼前の刹那はたった一度、こくりと音もなく頷いた。


 2年前、確かに兄として刹那を救いたいと思った。例えそれが本当の兄弟でなくとも。


 だがそこから先どうするかは刹那本人の意思で決めることであり、ただ瞬矢はそのきっかけを与えたに過ぎないのだ。


「兎に角、あの男から咲羅を引き離すなら今しかないと思ったんだ」


 刹那の発した言葉の端々からは、咲羅にこれ以上罪を背負わせたくない、昔の自分のようになってはいけない――という強い思いが窺い知れた。
 

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