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【S】―エス―01

第31章 ハローバイバイ

 その考えは瞬矢とて同じであり、それに今更追い出す気もなかった。故に出た答え。


「協力はするが、大したことはできないからな」


 それを聞き刹那は嬉しそうに目を細め、その茶色い双眸の奥に宿る温かな光を揺らす。


「……ありがとう。普段どおりに接してくれればいいよ」


 丁度その時、用意を終え2階から下りてきた茜が、入り口付近の壁を2度静かにノックし知らせる。それを目視した刹那は椅子から立ち上がり、


「じゃ、話はまた今度」


 咲羅をひょいと抱え上げ、階段へと続く入り口の手前で顔だけを向けてそう言い、口角をつり上げる。


 きっと咲羅に昔の自身を重ね、放っておけず、ハロルドという男のもとから連れ出さずにはいられなかったのだろう。


 だからこそ、心より咲羅を笑顔にしたいと願うのだ。


 背後にある窓の外から一際大きく聞こえる虫の声が、7月の宵闇に涼を醸し出す。


(……ま、俺も同じようなもんか)


 全身の力を抜き、だらりと椅子の背に凭れかかる。そんな瞬矢もまた、咲羅の笑顔を見てみたいと思う者の1人であった。




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