テキストサイズ

【S】―エス―01

第31章 ハローバイバイ

 
「よし! 咲羅、アイス食うか!?」


 瞬矢の一言に、咲羅の表情はぱっと華やぐ。


「食うー!」


 この頃には、ふとした時に見せる咲羅の表情も、以前に比べて随分と豊かなものになっていた。


 3人のやり取りを居間の椅子に腰かけ遠巻きに見ていた刹那は、表情を綻ばせるのだった。



 ――夜の帳(とばり)も下りた夜半過ぎ。刹那たち4人は、別荘の前にある草むらのない拓けた場所へ。


 花火のビニール包装を開いたその中から、先端にひらひらと赤いこよりの付いたひとつを手に持たせてやり、ライターで火をつける。


 着火し賑やかな音と煙を上げて、白から緑、赤や青へと変化する火花。その光を映した褐色の瞳をきらきらと輝かせる。


 やがて咲羅の持っていた花火は、静かな音を立てて暗闇に余韻を残し鎮火していった。


「あーあ」


 そう言いながらも声を上げて笑う咲羅は、終始とても楽しそうだ。まるで、ここへ来るまでのことなどなかったかの如く。
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ