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【S】―エス―01

第31章 ハローバイバイ

 刹那は笑う咲羅を見て口の端を緩め、けれどもどこか思慮深げに目を細めるのだった。


 当の咲羅は、早くも次の花火を手にはしゃいでいる。


「咲羅っ!」


 離れていた茜が不意に呼びかけ、その声に満面の笑みを湛えたまま咲羅が振り返ると、同時に切られたシャッター音。


 時折雲間から顔を覗かせ闇夜を照らす欠けた月も、彼らを微笑み見守っている。


 4人で過ごす、かけがえのない時間となった。



 午後9時45分。夏場といえど日が暮れれば山の空気は冷え込んでくる。


 咲羅を部屋へと送り届けた刹那は、彼がしっかり床に就いたのを確認し、くるりと踵を返す。


「ねぇ、セツナ」


 だが刹那が部屋から去ろうとしたその時、背後より咲羅に呼び止められる。


「なんだい?」


 振り返り歩み寄ると、側に置いてあった椅子に腰かけ訊ねた。


 すると布団から腕を出しごろり顔を横へ向け、少し言いづらそうに目を伏せおずおずと話を切り出す。


「ん、あのね……1人になったら、あそこにいた頃のこと思い出して……。だからさ、その……しばらくここにいて?」
 

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