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【S】―エス―01

第31章 ハローバイバイ

 ふっと息を吐き、両の目を伏せればそれは治まり、棚引いていた髪もふわりと定位置に収まる。


 再びくるりと背を向け、今度こそ一瞥もくれずリンのもとへ。遠くわずかに窺い知れた、ヘリに乗り込む咲羅の唇が言葉を刻む。




『――バイバイ、セツナ』



 ……たった一言。


 前髪に表情を隠した咲羅は、それから一度たりとも刹那たちを見ることはなかった。


 機体のエンジン音と共にゆっくりと回転を始めたプロペラが再び湿った空気を掻き回す。


 気流を巻き上げその機体を上空に浮かせる。やがて咲羅を乗せた機体は、黒い点となり彼方へと消えていった。




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