テキストサイズ

【S】―エス―01

第31章 ハローバイバイ

 
 ――つい数日前のこと。


「ねぇ、アカネ」


 玄関先の階段部分に腰を下ろし膝を抱えた隣で、不意に咲羅が呼ぶ。


「何?」


 見下ろせば、くりくりとした瞳で視線を送る咲羅。雲間から覗いた満月が照らし、闇夜を湛えた褐色の瞳の奥に静かな光を与える。


「アカネは、シュンヤとセツナのこと好き?」


 やおら何を言い出すのかと思えば、恐らく瞬矢たちに自身を重ねているのだろう。


 だが咲羅の投げかけた質問。短絡的ではあるが、『好き』か『嫌い』かで訊かれれば、紛うことなくその答えは決まっていた。


「そうだね。昔は色々あったけど、今は2人とも大切な存在だよ」


 茜は過去を懐かしむように膝を抱え直し遠くを見つめ、口元を緩ませる。


 正面を向いた咲羅は「ふぅん」と鼻から抜ける返事をし、同じように膝を抱え天に顔を覗かせる月を仰いだ。


「僕も、誰かに想ってもらえる存在になれるかな?」


 茜は自分と同じ瞳でじっと見つめ返し訊ねてくる咲羅に、そこはかとなく弟のような感情を抱いていた。そんな咲羅に対して当然と微笑み答える。


「大丈夫。なれるよ、絶対」
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ