
【S】―エス―01
第31章 ハローバイバイ
なぜならば、茜たちとは出会ってまだ1週間足らずであったが、『咲羅』という存在はすでに彼らの心に深く刻まれていたからだ。
だが言葉だけではどうにも心許なく、咲羅の茶色い髪を解かし抱き寄せる。
抱き竦められた咲羅は、髪の毛と同じ茶色の長い睫毛に縁取られた大きな目をぱちくりとさせ、ただただ空を見上げていた。
(だって、あなたはもうこんなに想われてる)
**
居間の奥から入り口へと近づいてくる足音で、茜はふっと我に返る。
足音はすぐ側にまで迫り、現れたのは、炯々(けいけい)とした目つきで居間を後にする刹那であった。
去り際に射抜くような瞳で壁越しに聞いていた茜をちらりと一瞥し、だが何を言うでもなく、ふいと視線を逸らすとそのまま2階へと上ってゆく。
怒りと憤りを湛え滲ませたその横顔は、今までの刹那からは見たことのない、初めて目にする表情だった。
階段を上る足音が遠のき、再び静寂と虫の音が包む。
茜は2階――階段の先をちらと見やり居間へと入る。部屋の中央よりやや奥、テーブルを前に床へ視線を落とす瞬矢が佇んでいた。
「瞬矢……今の……」
だが言葉だけではどうにも心許なく、咲羅の茶色い髪を解かし抱き寄せる。
抱き竦められた咲羅は、髪の毛と同じ茶色の長い睫毛に縁取られた大きな目をぱちくりとさせ、ただただ空を見上げていた。
(だって、あなたはもうこんなに想われてる)
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居間の奥から入り口へと近づいてくる足音で、茜はふっと我に返る。
足音はすぐ側にまで迫り、現れたのは、炯々(けいけい)とした目つきで居間を後にする刹那であった。
去り際に射抜くような瞳で壁越しに聞いていた茜をちらりと一瞥し、だが何を言うでもなく、ふいと視線を逸らすとそのまま2階へと上ってゆく。
怒りと憤りを湛え滲ませたその横顔は、今までの刹那からは見たことのない、初めて目にする表情だった。
階段を上る足音が遠のき、再び静寂と虫の音が包む。
茜は2階――階段の先をちらと見やり居間へと入る。部屋の中央よりやや奥、テーブルを前に床へ視線を落とす瞬矢が佇んでいた。
「瞬矢……今の……」
