
【S】―エス―01
第31章 ハローバイバイ
おずおずと言葉を切り出す茜に頭(こうべ)を垂れた状態で目線だけを送り、低く抑揚のない声を出す。
「聞いてたのか」
茜は歩み寄ることも躊躇(ためら)い、黙したままこくりと頷き肯定する。
それを目視した彼は、右手で自らの顔を覆い嘲笑にも似た笑みを浮かべ開口した。
「あいつがあんなに感情的になるなんて、初めてだ」
顔を覆い隠した右手を下ろし、湛えた笑みはそのままに言う。
「でも、喜ぶべきなのかもな」
それは、他者へ感情を露にし人間らしさを得たことへの喜び。そして同時に、刹那が見せた剥き出しの感情は咲羅の存在の大きさを表していた。
「あいつが言ってたことは本当だ。あの頃の記憶がないのは事実だからな。それでも、どこかで分かった気になってた」
「けれど……」一旦言葉を区切った瞬矢は背を向け、すでに暗闇が蔓延(はびこ)る窓の外に視線を移しこう続ける。
「咲羅を引き留めることができなくて一番悔しいのは、あいつなんだ」
窓ガラスに映る彼の表情は曇り目は伏せられ、下ろした手はきつく握られている。
刹那同様に、やはり瞬矢も咲羅を引き留められなかった事実が悔しいのだ。
「聞いてたのか」
茜は歩み寄ることも躊躇(ためら)い、黙したままこくりと頷き肯定する。
それを目視した彼は、右手で自らの顔を覆い嘲笑にも似た笑みを浮かべ開口した。
「あいつがあんなに感情的になるなんて、初めてだ」
顔を覆い隠した右手を下ろし、湛えた笑みはそのままに言う。
「でも、喜ぶべきなのかもな」
それは、他者へ感情を露にし人間らしさを得たことへの喜び。そして同時に、刹那が見せた剥き出しの感情は咲羅の存在の大きさを表していた。
「あいつが言ってたことは本当だ。あの頃の記憶がないのは事実だからな。それでも、どこかで分かった気になってた」
「けれど……」一旦言葉を区切った瞬矢は背を向け、すでに暗闇が蔓延(はびこ)る窓の外に視線を移しこう続ける。
「咲羅を引き留めることができなくて一番悔しいのは、あいつなんだ」
窓ガラスに映る彼の表情は曇り目は伏せられ、下ろした手はきつく握られている。
刹那同様に、やはり瞬矢も咲羅を引き留められなかった事実が悔しいのだ。
