
【S】―エス―01
第32章 原点
――『東雲 刹那』の墓碑。
傍らに生えた低めの常緑樹に見守られるかの如くぽつりと点在するそれは当時のまま。
穿(うが)ち暴いた墓碑銘を隠す訳でもなく、ただ墓石の上に落ち葉を堆積していた。
右隣に手提げ鞄を持ち立っていた刹那が、なんとも体言し難い複雑な表情で墓石に刻まれた墓碑銘を見下ろす。
例え自分自身でないとはいえ、やはり同名の墓石を目にするというのだから。
だが瞬矢もまた、自身の出生に隠された秘密を知った今、改めて墓石の前に立ちしばし思いを馳せる。
命短しと鳴き叫ぶ蝉の合唱が辺りに木霊し、木々に囲まれているにも関わらず、より一層暑苦しさを増幅させた。
「2人共、早くしないと日が暮れちゃうよ?」
瞬矢たちの後に続き、草木が生い茂る坂を下りてきた茜の一声によって2人は現実に引き戻される。
携帯で現在の時間を確認すると、時刻はすでに午後3時20分を迎えようとしていた。
現在の時刻を確認し、瞬矢と刹那は互いに無言で視線を送り合う。
「よし、早いとこ始めるか」
